1型糖尿病の新しい治療選択肢:SGLT2阻害薬について詳しく解説

はごろも内科小児科(立川市)では、糖尿病専門医・内分泌専門医による最新の医学知見に基づいた診療を行っています。本記事では、当院院長・田丸新一 医師がcorresponding author(責任著者)を務めた最新論文(Journal of Diabetes Investigation, 2025年, PMID:40418519)をもとに、1型糖尿病における新しい治療薬「SGLT2阻害薬」について詳しく解説します。
目次
SGLT2阻害薬とは?
SGLT2阻害薬(SGLT2i)は、腎臓の尿細管に作用し、余分なブドウ糖を尿と一緒に排出させることで血糖を下げる薬です。インスリンとは異なる経路で血糖値を改善できるため、従来の治療に加えて補助的に使用されています。もともとは2型糖尿病治療として開発されましたが、日本では2018年以降、一部の1型糖尿病患者さんにも保険適用されています。
どんな患者さんが使える?
1型糖尿病患者さんのうち、以下の条件に当てはまる方が対象となります。
- インスリン治療を継続している方
- 食事・運動・インスリンだけでは血糖コントロールが不十分な方
- 肥満傾向があり、体重管理も必要な方
- 担当医が総合的に適応を判断した場合
※SGLT2阻害薬はあくまでインスリン治療を補助するものであり、インスリンが不要になるわけではありません。
期待できる効果
- 血糖値の安定(HbA1cの改善)
- インスリン用量の減少が可能になることがある
- 体重減少(特に肥満傾向のある方で期待される)
注意すべき副作用・リスク
一方で、使用にあたっては以下のようなリスクも知られています。
- 低血糖(インスリン量を適切に調整しないと起こる)
- ケトアシドーシス(DKA)(血糖がさほど高くなくても発症する場合がある)
- 尿路感染・膀胱炎・カンジダ症(尿糖増加による感染症リスク)
- 脱水・サルコペニア(過度な体重減少に注意)
導入後も定期的に血糖・ケトン体・体重のモニタリングを行い、安全に継続できるか確認が必要です。
はごろも内科小児科での診療の工夫
当院では、SGLT2阻害薬導入に際して以下のような点を重視しています:
- 体重・糖尿病罹病期間・既往歴を丁寧に評価
- インスリン減量は急激に行わず段階的に調整
- ケトン体測定の実施
- 利尿薬使用中の方には特に慎重に導入可否を判断
- 万一の副作用出現時の早期対応体制
最新の研究結果(田丸新一先生 論文より)
2025年にJournal of Diabetes Investigationに掲載された当院院長・田丸新一先生指導・corresponding authorによる研究では、SGLT2阻害薬を実際に使用している49名の1型糖尿病患者さんのデータを解析しました。
この研究から分かったこと:
- HbA1cが良好な患者ではインスリン減量は控えめに行われていた
- 体重が軽い方や糖尿病歴が長い方は低血糖を起こしやすい
- 利尿薬を使用している方はSGLT2阻害薬の中断率が高い
- まれにケトアシドーシス(DKA)が長期経過中にも出現する可能性
このように、SGLT2阻害薬は適切に使用すれば有効性が期待できますが、導入・継続には慎重な評価と継続的なモニタリングが重要であることが示されました。
参考文献
Sakai C, Tamaru S, et al. Clinical use and monitoring of adverse effects of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors in persons with type 1 diabetes mellitus. Journal of Diabetes Investigation. 2025; PMID:40418519